スターリングラード大攻防戦

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「ヨーロッパの解放」のDVDのセットについていた「スターリングラード大攻防戦」。これは例の「スターリングラード」ではありません。1972年の作ですので、あたしはもちろんリアルタイムにみたことはありません。「モスクワ大攻防戦」は既にみていましたので、似たような映画かなー?と思って、しばらくみずにおいてたのですが、先日みていないことを思い出し、ようやく全部みました。

これは「モスクワ大攻防戦」のように、スターリンさんやジューコフ元帥のような有名人は出てきません。司令官は出てきますが、実在の人物かどうかも分かりません。出てくるのは、その司令官ベッソノフ将軍、政治委員、師団長の大佐、中隊長のドロズドフスキー中尉、主人公の小隊長のクズネツォフという若い中尉、ちょっとガラのわるいウハーノフ軍曹、ギター好き、女好きの兵隊、馬の世話をする小柄な兵隊とそのコンビの老兵ルービン、美人看護婦ターニャ、輜重兵、捕虜のドイツ軍将校などで、無名の人ばかりです。どういう訳か、連隊長、大隊長は出てきません。彼らの使命は、スターリングラードを占領したドイツ軍の攻撃をはねかえすこと。白銀のなかで、ドイツ軍の戦車とソ連軍の対戦車砲を中心とした攻防が展開します。

最初、ギターの兵隊たちが歌ったりしているときに、ターニャが近づいてきて、「看護婦さん、御用ですか」とかいって談笑しているときに、いきなり空襲。その後もドイツ軍との戦いの連続です。
基本的にドイツ機甲部隊とソ連軍の砲兵の戦いという単純な構図なのですが、普通の戦争映画では出てこないような場面がいろいろあります。なぜか、中隊長と看護婦さんが恋人同士で、それをみんなに秘密にしているとか。また、明らかに逃げてきた戦車兵の隊長に対し、司令官が叱責し、すぐに戦場に戻らせたり、中隊長の命令で戦車を手榴弾で攻撃しにいった馬の世話役の兵隊が戦死すると、怒った小隊長が中隊長にむかって「自分でやってみろ」と言ったり、夜襲のあと部下と恋人のターニャを失った中隊長が、捕虜のドイツ軍将校に「お前たちのせいで」と殴りかかって皆に止められるなど、日本やアメリカの戦争映画では絶対に出てこないような軍隊の陰の部分を描いたり、人間臭いようなシーンがたくさん出てきます。

政治委員は普通のソ連映画では、しゃくし定規なことばかり言ったり、無茶な命令をするような役どころなのですが、この映画では下級将校の側にたって司令官に文句をいうような人物として描かれていて、少し意外です。また、政治委員はドイツ軍の攻撃から避難できずに、兵たちと一緒に戦って、すぐに戦死してしまいます。

DVDのパッケージには司令官が前面に出ていますが、実際は最初と最後に中心的に出てくる以外は、あまり出てきません。あとは、若い小隊長と周囲の人が中心で話が展開していきます。その小隊長も司令官から、兵隊がきちんと整列していないのを注意され、「皆疲れていますので」と言い返し、「お前は新兵か」と司令官から言われたりしています。中隊長は、お前のせいで恥をかいたと小隊長にあたります。中隊長と小隊長が同じ中尉というのも変ですが、実際の編成はそうなることもあったのでしょうか。

激しい戦闘の末に味方はどんどんなくなっていく。最後のほうで敵の夜襲をうけ、大勢の兵がなくなります。美人看護婦ターニャもそのときなくなります。最後のシーンでは何とかドイツ軍を食い止め、味方の遺体だらけになった戦場を司令官たちが見て回り、「最後まで砲を撃っていた者がいるはずだが・・・」といって探したら、煤と硝煙で汚れ、ボロボロになったクズネツォフたち七人に出会います。七人は貰った勲章をお酒につけて、回し飲みます。そこには勝利の喜びというものはなく、淡々として少し寂しい音楽が一層情感を高めます。

派手な戦闘シーンなどもあまりなく、全体的に抑えた感じですが、生き残った兵たちの静かな語り口がリアルで、思いがけない秀作に出会った気がします。

なお、YouTubeに映画そのものがあがっていました。ラストシーンはこちら。



歌っている画像だけですが、このようなものもありました。